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神戸地方裁判所 昭和50年(行ク)16号 決定 1975年12月16日

申請人 蚋鐘完 ほか一名

被申請人 神戸入国管理事務所主任審査官

訴訟代理人 麻田正勝 国見清太 風見幸信 ほか二名

主文

申請人らの申立は、いずれも却下する。

申立費用は、申請人らの負担とする。

理由

第一申請人らの申立の趣旨および理由は、別紙一記載のとおりであり、これに対する被申請人の意見は、別紙二記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  一件記録によると、申請人らは神戸入国管理事務所入国審査官により出入国管理令二四条一号に該当するとの認定を受けたので口頭審査の請求をし、さらに同事務所特別審理官の右認定に誤りがないとの判定に対し異議の申出をしたところ、昭和四八年三月二〇日法務大臣によつて右異議の申出は理由がないとの裁決がなされ、その結果同年四月二三日被申請人から送還先を韓国とする本件退去強制令書が発付され、神戸入国管理事務所収容場に収容されたところ、申請人らは法務大臣の右三月二〇日の裁決の取消とあわせて被申請人を相手方として本件退去強制令書発付処分の取消を求める本案訴訟(当裁判所昭和四八年(行ウ)第一一号事件)を提起すると共に同年四月二四日、本件退去強制令書に基く執行を本案判決確定に至るまで停止する旨の決定を求める申立をした(当裁判所昭和四八年(行ク)第六号)が、当裁判所は右申立に対し同年五月三一日、右申立をいずれも却下する旨の決定をした。申請人らはこれに対し即時抗告をし、これを受けた大阪高等裁判所は同年九月一八日、原決定を変更し、本件退去強制令書に基づく執行をその送還部分に限り本案判決確定に至るまで停止する旨の決定をし、申請人らは長崎県大村市所在、大村入国者収容所に移送され現在収容されていることが認められる。

二  そこで申請人らに本件退去強制令書に基づく収容部分の執行により回復困難な損害を生ずるか否かについて検討する。

申請人らは、既に二年七か月にわたつて拘禁生活を余儀なくされ、ために精神的、肉体的に疲労し、一〇代後半の人間の成長にとつて最も大切な時期であるのに、教育を受け、あるいは労働に従事する等の人間らしい生活を奪われており、このような状態の継続は回復不能な損害であると主張する。しかし、精神的、肉体的な疲労が収容の執行を停止しなければならない程度に達しているとの点については疎明がなく、また、学業、労働に従事できないことは認められるが、これら自由な社会生活が禁ぜられることは退去強制令書に基づく収容の執行に伴つて当然に生ずるものであり、申請人らに特別に生ずる損害とはいえず、かような事由のみで収容の執行停止を認めるのは出入国管理令の規定する在留資格制度を著しく紊すことになると考えられる。その他、申請人らに個別的、特殊的な損害が生ずるとは認められず、結局、申請人らに回復し難い損害が生ずるとは認められない。

因に、本件の本案訴訟は、その経過に照らすと、結審も間近いことが窺われ、申請人らの収容が今後著しく長期化することはないと考えられる。

三  よつて申請人らの本件申立は、その余の点について審究するまでもなく失当であるから却下し、申立費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 乾達彦 武田多喜子 赤西芳文)

別紙一 <省略>

別紙二 <省略>

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